西湘動物病院(神奈川県中郡二宮町の動物病院)

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承認(認可)薬レムデシビルを用いた猫のFIP治療は保険適用?

2021.8.30 -[ブログ]

わが国でも新型コロナ治療薬として承認(認可)されているレムデシビルが
猫のFIP治療の推奨(?)プロトコールとしてISFM(国際猫医学会)に認められました。

書いてあるでしょう。
「Remdesivir in the treatment of FIP in cats」
猫のFIP治療におけるレムデシビルの臨床使用プロトコールです。
ブログ上で公開してしまうには著作権的に問題があると思ったのと、ここに書かれているプロトコールは必ずしもベストではないだろうと個人的に考えているので、黒塗りにしています。

これ、当院のブログがたぶん本邦初公開の情報です。ググっても他に見つからないし、ISFMのメンバーページを探しても簡単には見つからないと思います。
実はメンバーページの中でもFIPに関するオンライン勉強会の参考資料としてサラッと添付されていたものなのですが、かなり新しい資料のようです。

よく見たら7月にこの元になる文書がフォーラムに投稿されていました。たぶん近いうちに会誌に掲載されて初めて多くの獣医師が知ることになるのではないかと。

 

オーストラリアでは以前からレムデシビルによるFIP治療が合法的に行われている(「合法的」というのは単に法的に承認された薬という意味であって、FIPに対してはもちろん、猫への使用自体が当然効能外使用ではあります)とは聞いていましたが、イギリスでも使用されていたらしく、さらに2021年8月から動物用に調製されたレムデシビルが使えるようになったとかなんだとか。(特許の部分をクリアしているのかどうか私は未確認です)
これが他国への輸出も可能となり世界中で使える現実的な治療法となったことから、今回のプロトコール掲載につながったんだと思います。
 

日本でも10月からレムデシビルが正式に流通する☞コロナ治療薬レムデシビル製剤を保険適用)と聞いているので、国内でもしばらくしたらレムデシビルがFIP治療の本流になりそうだと予想しています。
国内で購入するレムデシビルは重量あたりで換算するとGS-441524よりもさらに高価ではありますし(MUTIANと比べたらどうなのかは知りません。そもそもMUTIANが現在流通しているのかどうかも知りません)、
薬用量についてもレムデシビルの方がGSよりも多く必要だとされているので、
金額面で言えばまだまだGS-441524による治療に大きなメリットがありますが、
今後レムデシビルを使用してFIPを治療する最大のメリットは、何と言っても
承認薬である
ということ、そして(ほぼ)イコール

動物保険の適用対象になるだろう
ということで、これはFIPで苦しむ猫ちゃんを減らすためには大きな大きな進歩だと感じます。
※詳細について責任は負えませんので、ご自身で保険会社に確認してください
 
保険については、以前からレムデシビルが合法的に利用されているオーストラリアの獣医師Dr.Gとディスカッションしている中で話題に出てハッとしました。
(私はFIP治療に取り組んでいる世界中の獣医師が集まるグループに所属していて、Dr.Gとはそこで知り合いました)

こんな感じで。(私の英語力の拙さは気にしないでください・・・)
Dr.G「レムデシビルでドライタイプを治療しようとしたらかなり高額になっちゃうけどね」
私「そうだね、GS-441524の方が安いみたいだね(それでもかなり高いけど)」
Dr.G「でもGS注射は痛いし、レムデシビルなら保険が効きやすいのよ、GSはさすがに保険適用ムリじゃん」
私「(ん?保険?)確かに!!」
みたいなやり取り。

Dr.Gの経験では、一度保険会社から「動物用医薬品ではない」という理由で棄却されかけたものの、「でも獣医療で使用される医薬品はその多くが動物用ではないはずだ」と反論して、保険適用を勝ち取ったそうです。
日本でもまさか「高価な薬だから」という理由で保険が下りないなんてことは無いと祈りたいです。
 
ただし人間用に承認されたレムデシビル(ベクルリー®)は5mg/mlの濃度が基本のようですから、この濃度で猫のFIPに対する薬用量を皮下注射するとなると、かなり大量(私が調製するGSの3倍ですね)となってしまいます。
凍結乾燥製剤のほうを入手して濃い目に溶かして使用することになりそうですが、相対的に少ない溶媒で充分に溶けるのかどうか、その際の注射の刺激性はどうなるのか、試してみないとわかりません。
というわけで、保険適用される形でのレムデシビル使用には少しハードルがありそうですが、可能性には期待大です。

 
ちなみに、肝心のプロトコールの内容をざっくり説明しますと、
使用法としてはほぼほぼGS-441524と同じです。84日間の皮下注射。
注射に痛みを伴うと書かれていますが、Dr.Gに聞いた話によると、GSよりはマシだそうです。
投与量はもちろんGSとは異なるのですが、その用量の根拠が不明確だと感じました。
過去にPedersen先生はレムデシビルを使用するなら分子量の比率から計算してGS-441524の1.5倍量が必要だろうと書いています(これが正しいかどうかもまだわかりませんが、私は強く支持します)。
ISFMプロトコールでは少し用量が少ないように思えます。
これ、一昔前に使われていたGSの用量をもとに計算しているのではないかなと感じます。最近のGS治療では薬用量は多めに使うのが世界的な主流です(ただし薬用量を増やすことによる安全性等の評価には再度慎重になる必要があるとは思います)。
Dr.Gに聞いた話だと、やはり少ない量だと再発(再燃)がみられるので、このプロトコールに比べると多めの量で使用しているようです。
 
実はこれ、MUTIAN(Xraphconn)の薬用量にも同じことが言えるのではないかと以前から勝手に思っていて、おせっかいかもしれませんが私に言わせると薬用量の設定が古いです。
たぶんもう少し多めの用量で飲ませれば再燃症例ももっと減るのではないかと思うのですが、薬のお値段がさらに高くなるからキビシイでしょうね・・・
そもそも内服で効かせようと思うから大量の薬(これまたPedersen先生によれば皮下注射の2.5倍量が必要と言われています)が必要になるし、個体によって吸収に差が出る(ただでさえ下痢する症例が多い)ので注射薬よりも効果の予測が困難です。
やはりFIP治療は内服よりも注射が主流であるべきでしょう。
あ、厳密に言うとMUTIAN(Xraphconn)はGS-441524とは別物だと主張しているようなので、この辺の理屈は通用しないのかもしれません(苦笑)。
全てあくまで個人的見解にすぎません。MUTIANのことはMUTIANに詳しい先生にお任せします。

当院でMUTIANを絶対に使用しない理由はコチラにて☞MUTIAN協力病院ではないけれど関東(神奈川)で米国製GS-441524によるFIP治療を実施した

 
脱線ついでに書きますが、MUTIANやGS注射薬を使用している先生は、FIPの確定診断がつく前に診断的治療(治療的診断)を行うことも少なくないと聞いています。
これは、FIP「仮診断」の段階で実際にこれらの薬剤を数日間投与してみて、効果があればやはりFIPだろうと診断する、効果が無ければおそらくFIPではないのだろうと除外診断する、というプロセスです。
この診断的治療については、今回のISFMプロトコールには(診断プロトコールにも治療プロトコールにも)一切書かれていません。つまり現状では推奨される方法ではないと考えるべきだと思います。
私も以前はこれに完全同意の立場で、GS治療は確定診断ありきで開始すべきものと考えていました。なんたって高額だし、耐性ウイルスを産む可能性があるので注意です。
そうしてもたもたしている間に飼い主様からの信頼を失い、転院していった猫ちゃんも実際にいました(涙)。☞この忘れられない症例の詳細はコチラにて
ただ、現在では少し考えを改めています。
一部のドライタイプなどFIPの確定が難しいケースだったり進行が速い場合には、確定診断にこだわるよりも診断的治療を優先するのもありだと考えます。
GSの劇的な効果(特にその即効性)を目の当たりにしたからこそ選択できる方法だと感じます。
もちろん診断の追及を怠って薬剤を乱用することは避けないといけません。
 

さて、レムデシビルが承認薬であるとは言っても、もちろん猫のFIPへの使用は製薬会社から見たら効能外使用であり、獣医師の立場からすると実はGS-441524試薬を溶解して使用するのとそんなに違いはありません。いずれも獣医師の裁量権の範疇です。
(それを言ったら、Dr.Gも指摘していた通り、獣医療で動物用に承認された薬を使えるケースなんてそんなに多くなく、ほとんどの病気に対して獣医師の責任のもとに人間用薬だったり海外薬を使用しているのが実情なんですけどね。全て獣医師の裁量です)
レムデシビルを用いたFIP治療はまだ始まったばかりであり、GS-441524治療と比べると症例数は圧倒的に少ないはずなので、私自身の使用実績も踏まえて、
薬効としての確実性は現状ではGS-441524に軍配が上がると考えています。
(中国製をはじめとした海賊版GSは粗悪品が混ざっている可能性が否定できないし、そもそも特許の絡みで論外です)
ただし、今回完全ホワイトなレムデシビルがISFMに取り上げられたことで全世界で使用が進み、症例報告や研究報告もたくさん出るようになり、グレーなGSよりも良質なエビデンスが蓄積されていくことが期待されます。
逆に言えば、現状ではまだまだ手探り段階とも言えるレムデシビルの使用をISFMもよく取り上げたな、という感じもします。
それだけ今のGSブラックマーケットを問題視して、できるだけ早く正しい方向性を示したかったということなのでしょうか。

 
ちなみに、ご存じの方が多いと思ってここまで書かずに来てしまいましたが、レムデシビルは活性型GS-441524のプロドラッグ、前駆物質です。

画像はCan remdesivir and its parent nucleoside GS-441524 be potential oral drugs? An in vitro and in vivo DMPK assessment(2021 Jiashu Xieら) より引用

以下、あまり詳しくないので説明に間違いがあるかもしれませんが・・・
投与されたレムデシビルやGS-441524は、人でも猫でも、体内で「GS-441524 triphosphate(三リン酸)」という活性型に代謝されて初めて抗ウイルス効果を
発揮します。
レムデシビルはGS-441524をもとに、リン酸化+αの特殊な修飾をして作られた(ProTideテクノロジー)化合物なんだそうです。
以前はGS-441524が体内で効率的に三リン酸化されて最終的に効果を発揮するためには、この特殊な修飾過程が必須だと考えられていて、それでわざわざレムデシビルが開発されたようです。(そんなわけでレムデシビルはGS-441524よりも特許が新しく価格も高いです)
ですが、新型コロナ関連で急速に人医学領域での研究が進む中、実はそんな修飾は必須ではなく、GS-441524はそのまま投与されてもしっかり三リン酸化されて活性を獲得するということがわかってきました。
しかもこんな修飾をされてしまったレムデシビルは逆に内服での吸収に劣り、注射でしか使えません。
むしろ古い
GS-441524のほうが待望の新型コロナ内服薬として使えそうだという報告が次々と出てきているようです。
猫でこれだけ内服薬としての実績があることを知っている私たちからすれば(猫の内服の実績は厳密に言うとGS-441524ではなくXraphconnとのことですが・・・)人間にも内服で効くと言われたって全く驚きません。
※ふと勘違いされる素人の方がいるとマズいと思ったので補足します。MUTIANより安いからと言って「GS注射液」を猫に「飲ませて」は絶対にいけません!

ギリアドからしたら、せっかく高い金をかけて開発して、特許が新しい(=より長い間高価で販売できる)レムデシビルをイチオシで販売したいようなので、あいにくGS-441524は今後も埋もれた存在、グレーな存在であり続けるのだろうと思われていました(☞ Gilead is protecting its drug patent instead of protecting COVID-19 patients)。
 
しかし、新型コロナに対する有効な内服薬がなかなか出てこない現状(メルクのモルヌピラビルが最有力候補だと睨んでいましたが、治験の結果は良かったという話と思ったよりかんばしくなかったという噂と両方聞かれます)では、GS-441524を再評価して改めて内服薬としての承認を狙うことは考えられないんでしょうか?
素人考えですが、注射はレムデシビル、内服はGS-441524として、棲み分けができるようにも思えます。新型コロナに対するファーストチョイスの内服治療薬なんて、市場規模ハンパないんでしょうから・・・
今からギリアドが方向転換する可能性も考えられなくはないかなと、勝手にかすかな期待を抱いたりしています。
先ほど書いた通り、GS治療の本流は内服薬よりも注射薬であるべきですが、選択肢が多いことは悪いことではないはずだとは思っています。

これからも猫のFIP治療の進化から目が離せません。

 

個人的見解のまとめ(当院の方針

・治療実績を重視するなら →GS-441524試薬注射
・価格重視で保険が使えないなら →GS-441524試薬注射
・価格重視で保険が使えるなら →レムデシビル注射チャレンジ(流通開始以降)
・試薬の使用が不安なら →レムデシビル注射チャレンジ(流通開始以降)
・毎日の注射ができないなら →GS-441524試薬内服チャレンジ?
※再度勘違い防止のために書きますが「GS注射液」を猫に飲ませては絶対にいけません!

※同時進行でのFIP治療頭数には制限を設けています。まずは「オンライン相談」をご利用ください。
※当院での治療を前提としないご相談はご遠慮ください。

※新型コロナウイルス流行下の現在、神奈川県外からのご来院は受付を中止しています。

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