西湘動物病院(神奈川県中郡二宮町の動物病院)

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MUTIAN協力病院ではないけれど神奈川でGS-441524によるFIP治療を実施した

2021.4.30 -[ブログ]

※直接来院されても治療はできません。まずは「オンライン相談」をご利用ください。
 
長年不治の病とされてきたFIP(猫伝染性腹膜炎)の特効薬として期待されているGS-441524
を米国から正規に入手しました。
「承認された正規の治療薬」という意味ではありませんのでお間違えなく)

この1gの粉がウン十万円しますので、うっかりくしゃみでもしてまき散らさないように気をつけたいと思います。

「正規」というからにはその裏には「非正規」が存在するわけで、その代表格が何かと話題の中国製サプリメント?「MUTIAN」だったり中国の海賊版GS-441524だと言われています。
以前からブラックマーケットで闇取引されていると聞いていましたが、堂々と販売サイトがインターネット上に公開されています。
最近ではそのMUTIANのさらにコピー商品が存在して、中には粗悪な品質のものも含まれていたり、SNS広告などで流れてくるそうな。
おそるべしと言うか、さすがと言うか・・・

GS-441524はもともと新型コロナ治療薬レムデシビルの製造元として国内でもすっかり有名になった米国ギリアド社が開発して特許を有する薬物(化合物)ですが、それを何の断りもなく(ほぼ)コピー製造して、サプリメント?の有効成分としてしれっと混入して法外な価格で販売されているのがMUTIANだと言われています
(2021/10/3追記:しばらくの長い在庫切れ期間を経て、今では商品から「MUTIAN」という記載が一切なくなり、カプセルだった商品が錠剤に変わったりして、なんだかゴタゴタを感じさせます)

とは言え、米国輸入GS-441524だからと言って、いまだ猫のFIP治療薬として承認されているわけでは決してなく、我々獣医師からすれば、Pedersen先生による論文発表以来、製剤化、製品化を首を長くして待っている存在です。
そんな中、類似品が先に普及してしまうことは正規GS-441524の製品化(そもそも諸々の事情で製品化のメドが立たないのが問題なのですが)を妨げる原因となるかもしれません。

※インターネット上の情報だけ見ていると、MUTIANや海賊版GS-441524を、個人輸入したり、獣医師が輸入して使用するのは合法だから問題ないとして推奨するような記述も見られます。
確かに国内の法律で言えばどうやら違法というわけではないのですが、私が問題視するのはそれ以前の国際的な特許権の侵害(?)なわけで・・・
赤信号みんなで渡れば怖くない、みたいなマインドで、中国人が好き放題やっていることを後押しするのはどうなのかという話なのです。

そんな背景を知ってか知らずか、いわくつきサプリメント(※事情通の中の人から個人的に聞いたところによると農林水産省ではサプリメントではなく未承認動物用医薬品として個人輸入を許可しているとのことです)MUTIANを輸入して、胸を張ってFIP治療に使用して、良い治療成績を得て、飼い主様から感謝されているのがMUTIAN協力病院さんです。
気持ちはよくわかります。きっと協力病院の先生たちも良心の呵責にさいなまれながら治療を行っているに違いないと思います。
目の前で苦しむ猫ちゃんを第一に考えた、ある意味、勇気ある行動だと言えるかもしれません。
治療実績が豊富なのも確かなようなので、飼い主様がそれにすがるのを止めることは誰にもできません。

というような状況を踏まえつつ、しかし当院では安易に中国輸入コピー薬を使用することなく、正規ルートで輸入した米国輸入GS-441524を使用することを決めました。
正規ルートとは言っても、製剤ではなくあくまで試薬としての扱いです。
これを論文報告された「臨床例での治験として実績のある方法」にならって調製して使用します。


やってみるとわかりますが、輸入も調製も色々と面倒ではあるので、ついついネットで気軽に買えてしまうMUTIANだったり海賊版GS-441524を使いたくなるのもよくわかります。
しかしこれらを多くの獣医師が(もしくは飼い主が個人輸入で)使用してしまうことは「FIPに苦しむ世界中の猫ちゃん」が標準治療としてのGS-441524投与を適正価格で受けられるようになる日が遠のくということにつながるかもしれません。
かと言って、飼い主様にとっては「大事なわが子」が一番だということももちろんよくわかります。
その両方の立場にとっての解決策となるのはGS-441524試薬を獣医師の責任において使用することしかないだろうという結論に達しました。

そもそも、なぜこんなことをブログに書いたかをぶっちゃけますと・・・

高額で輸入したGS-441524を使用するアテが無くなってしまったからです(汗)。

コトの始まりは、当院に通っていたとある一匹の猫ちゃんにFIPを強く疑ったことでした。
まだほとんど無症状に近いほど軽症のうちにFIPを発見した経緯もあったし(避妊手術を希望されて受診したくらいです)、確定診断とするにはあと一歩検査所見が不足していたので、こちらとしては高額治療開始に踏み切れず、ひとまずいざというときにすぐに治療開始できるように輸入して備えておくことにしました。
高額なうえ安全性も保証されていないわけですから、「疑わしいから投薬開始してしまえ」とは簡単に行かない治療法です。
薬剤耐性の誘導リスクもあるので、しっかり確定診断がついてから、あるいは十分に正診率を上げてからの治療開始が望ましいと考えています。
(と、その頃は頑なに考えていましたが、今ではこの「試験的治療」に関して少し考えを改めています
しかし、飼い主様的には手遅れになってしまう恐怖感が勝ってしまったようで(気持ちは十分わかります)、一刻も早い治療を希望されてMUTIAN協力病院に転院して行きました(涙)。
早期に疑ってから、じっくり検査方針、治療方針を相談してきたつもりだったので残念です。
※こう書くと勘違いされる方がいるかもしれませんので飼い主様の名誉のために書き加えておきますと、
高額な試薬の輸入も完全に当院の判断で行ったものであり、飼い主様が依頼しておきながら放棄したわけではありません。
当院での治療を希望されるかどうかは飼い主様の自由です。わが子の病状を第一に考えて悩んだ末に転院された飼い主様を責めるつもりはありません。
確かにその時点では輸入を手配した試薬がまだ届いておらず、当院ですぐに治療が始められる状況にはなかったので、そのスピード感の無さはむしろ申し訳なく感じています。

治療開始のタイミングに慎重になりすぎて、飼い主様との温度差が生じてしまったことは否めません。
金銭的な部分がこちらの判断の足を引っ張ってしまった部分もあったかもしれません。
(MUTIANの半額以下に価格が抑えられるだろうとは言え、それでもまだ私の常識で考えたらとても高額な治療法には違いないので・・・)
結果として寄り添いきれなかったというところは反省点です。
残念ながら信頼関係が築けていなかったという部分が全てです。

 

そして正直なところ、もうひとつ残念なことは、現時点で当院には他にGS-441524使用を考慮するようなFIPの猫ちゃんがおらず(それはそれでむしろ良いことですが!)、このまま使用期限が切れたらこの高額な薬を廃棄せざるを得なくなるかもしれないことです(涙涙)。

ですが使用期限が2年間あるのは不幸中の幸いでした。

MUTIANにまつわる黒い噂を理解しつつも、わが子の治療を諦めきれず「1mmたりとも良心の呵責なくFIP治療を行いたい!」と考える誰かがこの記事を目にして、当院の考えに賛同していただき、相談して頂けることを祈っています。

おかげさまで問題となっていた初回輸入分(+追加輸入分)は、いち早くご相談いただいた2頭の猫ちゃんに既に使い切り、今ではめでたく寛解を達成して元気にしています。
その後も当院での寛解事例は30頭以上に着実に増えていっています。

※直接来院されても治療はできません。まずは「オンライン相談」をご利用ください。


論文では試薬の調製後の保存期間は冷蔵で1か月としているので、これにならって、注射薬を大量調製して保存しておくようなことは行っていません。(海賊版GSとか、そのへんどうなのかと疑問です・・・)
そのつど必要量だけを夜な夜な調製するので、直接来院されてもすぐに注射薬をご用意できないのです。
また、試薬の在庫確保の都合上、同時進行での治療頭数には制限を設けています。(治療途中で供給がストップしてしまうと困る)
標準治療ではないことや、想定される副反応の説明、治療方針や金銭的な面などで予め同意が得られていないと、来ていただいても無駄足になる可能性があることからも、
まずは必ずオンライン相談の予約を入れてください。

このカタチにするのが思った以上に大変でした。(写真は初期の試作品です)
個人の手作業であることは否めませんが、試薬の粉を適当に水に溶かして注射するとかそういうレベルの話ではありませんのでご安心ください。

再度書きますが、「臨床例での治験として実績のある方法」にならって調製して使用します。

なお、GS-441524による猫ちゃんの治療については、製造元による有効性、安全性等の担保がなされているものではないことを十分にご理解ください。
あくまで獣医師の「裁量権」に基づいて使用される研究用試薬です。
(獣医師には必要に応じてこのような未承認使用が法的に許可されています。ただしその責任は全て獣医師が負う必要があるのです)

効果に関して根拠とする論文は主にこちらです。

☞ Efficacy and safety of the nucleoside analog GS-441524 for treatment of cats with naturally occurring feline infectious peritonitis

☞ The nucleoside analog GS-441524 strongly inhibits feline infectious peritonitis (FIP) virus in tissue culture and experimental cat infection studies

学術的なエビデンスのレベルとしては低いという指摘もありますが、これらを補う情報として、皮肉なことに、MUTIANをはじめとするコピー薬剤による治療効果の報告が数多く存在することは無視できません。
実はMUTIAN協力病院の院長の一人は私のよく知っている後輩なのですが(!)、実際の話を聞く限り治療効果の可能性としては間違いないだろうと感じます。

これらの論文で報告されているのは「12週間毎日の注射」による結果なので、完全に同じ治療をするのは大変でしょうが、そこも裁量。
実際の治療にあたっては、一緒に最適と思われる投与法、投与量、投与期間を相談しましょう。
(ただし、薬剤耐性の観点から、いたずらに治療期間を短くすることは決してお勧めできません)
第一人者であるPedersen先生の発信する情報を紐解くと色々な可能性が見えてきます。
(※2023年追記 現在はISFM推奨プロトコールを参考に「初期の1~2週間は注射投与+その後12週まで内服投与」を基本としていて、注射のみで12週継続するよりも合併症や治療期間の延長などの頻度が減ってむしろ好成績となりました)

ちなみに、たとえ当院で12週間毎日注射の治療法を選択したとして、自宅でMUTIANを推奨量で12週間飲ませるのに比べたら半額以下で済むようです。
確かにGS-441524は高額ですが、それにも増してさらに法外な価格で販売されているのがMUTIANですので。

ただし残念ながらそれでも決して安いとは言えない価格であることにはご注意ください。
海賊版GS-441524注射液ならさらに安く提供できるのかもしれませんが、品質面の不安と特許の問題があるので当院では使用しません。

☞保険適用の可能性がある新たなFIP治療についてはコチラ

残念ながら前述のFIPの猫ちゃんとは縁がなかったけど、その猫ちゃんのおかげで今後FIPに対する治療の選択肢を提示できるようになったのは獣医師として喜ばしいことだと感じています。
猫ちゃんが良好な経過を送っていることを祈ります。

※直接来院されても治療はできません。まずは「オンライン相談」をご利用ください。

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